小児慢性疲労症候群(Childhood Chronic Fatigue Syndrome:CCFS)について

 1984年アメリカ、ネバダ州で奇妙な疲労を示す症例が群発発生しました。それから4年後の1988年、米国CDC(Centers for Disease Control: 防疫センター)により「Chronic Fatigue Syndrome:CFS 慢性疲労症候群」と言う新しい疾患概念が提示され話題を集めました。

  一方、17~8年前、私たちは、自らの意志に反して学校に行くことができない子供たち「不登校」に向き合い始めていたのですが、不登校状態の中学生、高校生にまさしく慢性疲労症候群診断基準に合致する例が含まれることに気がつきました。その後の十数年、「不登校状態」が果たして成人における「慢性疲労症候群」と同一の病態なのかあるいは異なる病態なのかの疑問の解決に費やしてきました。現時点ではまだ完全には結論できませんが、脳機能低下、睡眠障害、ウイルス再活性化や自己抗体出現などの免疫異常、エネルギー生産性低下の存在など多くの点で「不登校」が「慢性疲労症候群」と共通の病態を持つことが明らかになっており、この二つの病態はほぼ同一のものであると示唆されるに至っています。従って、私たちはCFS診断基準に当てはまる不登校状態を小児慢性疲労症候群(Childhood Chronic Fatigue Syndrome:CCFS)と呼ぶことにしたのです。

 そして、私たちのこれまでの研究は「不登校状態」すなわち 「小児慢性疲労症候群」の原因病理として生物時計機構の乱れに伴う生体リズム障害が最も重要な位置を占めることを示しています。つまり、子ども達の睡眠時間を削り取る頑張りを通した慢性的睡眠欠乏に始まり、生体時計のズレや乱れを伴い、「脳の働きを守る」システムが崩壊してしまうために、学業への意欲の欠如のみならず、生きる力の低下が引き起こされ生活のメリハリの消失が起こってしまうのです。

 困ったことに、小児慢性疲労症候群に陥った子ども達の誰もが、自分自身に起こっている生命力低下を認識することができません。自分自身の心身不調の原因を理解出来ないので、もちろん周りの誰にも説明出来ず、従って「怠け者」扱いされてしまうと言う悲劇が起こります。この悲劇は家族全員を巻き込んでしまう場合があり、まさしく日本の社会問題になっているのです。

小児慢性疲労症候群としての不登校予防について

 これまでに述べてきましたように、子ども達の学力の低下、意欲の低下の基に、慢性的睡眠欠乏と慢性的睡眠質低下が潜んでいることがわかりました。近年、子ども達の生命力低下が心配されていますが、それは視床下部を中心とした辺縁系と呼ばれる時計機構を含む生命維持の脳が、元気をなくしていることを意味します。概日リズムの歯車がリズミカルにかみ合って いる間は、ヒトは一日の行動を自然にほぼ時間通りに24時間周期で繰り返すことで社会生活ができるのです。この時計機構の混乱は、これまで「時差ぼけ」以外にはあまり知られていなかったのですが、現代夜型生活を筆頭に様々な生活環境ストレスが脳の視交差上核を介して体内時計にズレを生じさせ25時間周期の方向へシフトしてくる事が明らかになってきました。

 概日生体リズムのズレにより、寝付きが遅くなるにも関わらず起きる時間は同じですから、その分睡眠時間が短くなり、朝の寝起きが辛くなります。生物時計の狂いに伴う睡眠不足は頭痛、腹痛、気分不良、だるい、疲れるなどの不定愁訴に始まり、イライラ感、キレる、暴力傾向、あるいは持続する奇妙な疲労、学習・記銘機能低下を来して、ゆとりのない生活態度になります。最も困った問題は勉強ができなくなること及び日常生活の破綻による学校社会からの引きこもりとしての不登校状態(成人では不登社状態)が作られることです。

 そこで、毎日の睡眠・覚醒 リズムを睡眠ログに記載して戴き、答えて戴いたメンタルへルスケアシステムの質問項目を合わせて解析する事により、心身の健康状態を把握評価し、小児慢性疲労症候群としての不登校を未然に防ぐことが出来ると確信するに至りました。体内時計のズレの初期・軽度の時期には心身活動に微妙な違和感が表れ、朝の気分不良、頭痛・腹痛、だるい・疲れるなどいわゆる自律神経の軋みによる原因が曖昧な体の不調が出現し始めます。この段階で、十分な睡眠・休養を取ることで体内時計の狂いを修正し元気を取り戻すことができます。しかし、休養を取らず無理を重ねますと、体内時計のズレとリズム振幅の平坦化が固定化されてしまい、修正できなくなって 睡眠相後退症候群と呼ばれる睡眠障害が現れます。